May 19, 2021

伊藤東凌さんとJunさんがチームをつくるまで

京都の禅僧と香港のデザイナー、なかなか接点を見つけにくい2人は、どのように力を合わせてプロジェクトを立ち上げることになったでしょうか?FUUUNチームの結成について、両足院の伊藤東凌副住職にお話を聞きました。


今から約2年前、とあるホテルの和室施設で、週に4-5回ほどメディテーションの指導を行っていました。ある日、ホテルの宿泊客であるJunさんが、香港で経営しているSLEEEPという事業のスタッフ達と一緒にメディテーションの指導を受けに来ました。そのチームで貸切状態になり、その中に1人だけ目の輝きが違う男が1人がいました。話してみると、香港から来られた方だと知りました。それがJunさんとの出会いでした。

偶然にも、Junさんがメディテーション指導を受けた1週間後に、私が香港に行く予定がありました。そこで私は、向こうでも会わないかと提案しました。香港でもカフェを借りて、SLEEEPの共同創立者のAlexさんや他のスタッフへ向けて坐禅体験会を開催しました。こういう会はやはり意義深いねと心が通いました。

さらに話を聞いてみると、Junさんの奥さんは日本の方で、息子さんもいるとのこと。私も家族と香港へ来ていたので、帰国する前に家族同士での食事会まで実現できました。

Junさんは、世界各地で「接心」と呼ばれる修行を体験していました。そして今は「睡眠」について研究して、そのサービスを提供することが人類にとってどんな意義があるか科学的な視点と、禅の境地の双方からもっと掘り下げたいと言いました。

Junさんは禅について学びを深めたい、京都の禅寺で本格的な研修を受けたいと何度も言いました。私も実はレジデンスプログラムのような構想を持っていたので、これを機に設備を整えて、受け入れる準備をしました。彼のまっすぐな目を見ると、こちらもその期待に応えなければ、という思いが湧いてきます。

そうして、2020年春、Junさんは6週間ほど両足院に滞在しました。朝はお経を読み、坐禅をして、作務(日々の雑事)などのお寺のルーティンを行い、午後はリモートで香港の仕事をこなす生活をしてもらいました。時々、2人で一緒に数時間ほど散歩に出かけたり、晩御飯は子どもを交えて一緒に食卓を囲んだりしました。どんどん仲良くなりました。

聞けば聞くほど、Junさんが将来に対して考えていることや、社会の課題を発見するポイントなどが面白いと思いました。

Junさんとの出会いから、「FUUUN浮雲」プロジェクトが発足までの経緯は?

Junさんは2020年の3月末に香港に戻る際に、次は家族と一緒に日本に移住することを決心したそうです。

東京への引っ越し先を決める段取りに進んでいました。日本での事業展開を考えるにあたり、単純にSLEEEPの支店を日本で開くのはおそらくうまく行かないと予想したようです。

不動産も高価な上に、日本のカプセルホテルやライフスタイルホテルの市場はすでに成熟しており、香港と日本ではかなりバックグラウンドが違うなどの理由がありました。

不動産を持たずにできるビジネスを考え始めました。

最初は、トレーラーでカプセルホテルを運んで、そこにサウナが付いているような施設を考えたみたいです。

いろんな人の話を聞いて、アイデアを探しました。例えば、私の母は、若い頃の一番の思い出は友達と3人で旅館で川の字で寝て、ずっとおしゃべりすることだったと言いました。

それを聞いたJunさんは大変感銘を受けて、日本らしさを感じたらしいです。

そうなると、カプセルホテルではなく畳敷きの空間にできたら面白そうだなと考え始めたんですね。3月末に両足院を離れて、東京に引越す時には、そのぐらいまで発想が固まりました。

4月以降、パンデミックで世界中の状況がガラッと変わりました。

ある日、連絡を取り続けていたJunさんから、「東凌さん、オンライン坐禅しましょう。今がそれをやるタイミングです。」と言われました。

実は1年ぐらい前からオンラインコミュニティ的なことをやりたいと考えていたので、これは確かにいいタイミングかもしれないと思って、何回かトライアルを経て「UnXe 雲是」を立ち上げました。

オンライン坐禅会に参加して頂いたらわかると思いますが、とても実りの多い会です。

自分自身についてや、社会の課題についてなどを一緒に考えたりもする会になりました。

オンライン坐禅会を始める前から、私は両足院という地理的な場所にとらわれない活動のあり方を考えていました。少しずつ拠点を広めて多拠点、または無拠点などの動き方もありえるかなとも思っていました。キャンピングカーを所有したいという気持ちはそれほど強くはなかったですが、Junさんの提案も一ついい機会になるのではないかと思い始めました。

その思いがさらに膨らみ、確信に至ったきっかけは、おそらく自粛期間中に、家族を連れてドライブを楽しんだことだと思います。

目的地に向かうことではなく、大自然の中でのドライブそのものを楽しんでいました。もともと運転は嫌いではないですし、その期間に片道2時間以上の旅をたくさんしましたので、そのまま車の中でくつろげたらいいなと思うようになりました。車は1つの安全圏、さらに居住空間になり得るという可能性をすごく実感しました。

その時に、Junさんのアイデアがやっとピンときました。


これからのFUUUNに対する期待は?

誰も先のことがわからない状況になっていて、ある種の分断が起こっています。

素早く情報を獲得する人と、情報から遠い人や情報に振り回されている人がいます。

都市型の生活に固執する人と、地方に留まる人と、そのような分断構造が強まっているように見えます。

そこに、ふわっと浮かぶ雲のように、いろんなところを繋げてくれる存在があればいいなと思います。

引越しして都会のすべてを捨てるのはどうなのかと悩んでいる人もいれば、既に2拠点生活を実践している人もいます。

しかし、そのどちらでもない、もっと気軽に両方を行き来して楽しむライフスタイルもあってもいいのではないかと思います。FUUUNは、そのようなライフスタイルを実現してくれて、「心のオアシス」になれるような移動空間になれると思います。まさにプロジェクト名に込めている想いです。

私たちは、「縁側」というキーワードも大事にしています。

家の中かな、庭の中かな、いや、どっちとも言えるような空間は縁側です。

FUUUNも、都市と田舎の間、ライフとワークの間の中間領域として、役割を果たしていくでしょう。従来のキャンピングカーに比べて、仕事をこなせる空間を提供するのもテレワークの需要を意識しています。

また、社員同士で違う環境に移動してアイデアを話し合ったりする際も、居心地の良い空間での移動体験を提供できると思います。

アイデアの量は移動の距離と比例するという言説もありますが、移動するワークスタイルには、企業やチームに新しい価値を生み出す可能性が潜んでいると思います。

自分自身の活動とFUUUNプロジェクトの今後の繋がりは?

京都の禅僧と香港のデザイナー、なかなか接点を見つけにくい2人は、どのように力を合わせてプロジェクトを立ち上げることになったでしょうか?FUUUNチームの結成について、両足院の伊藤東凌副住職にお話を聞きました。

自分自身の活動とFUUUNプロジェクトの今後の繋がりは?


FUUUNのコンセプトを紹介する時に、「遊行単(ゆぎょうたん)」という言葉を使います。

正直言って、単語自体は後付けのものです。昔のお坊さんはよく遊行しました。いろんなところに行って、滞在先の土地で人々と出会い、問題解決をしたり、説法したりしました。

そういった出来事が物語として伝承されてきたものもあります。それに比べて、自分はかなり物理的に一つの場所にとどまっていると感じます。

そして、「単」というのは禅堂の中で一人が与えられる一畳分の生活空間ですが、他人の空間とも隣接していて、とてもミニマルです。

それと比べたら、今の自分はたくさんのものに囲まれて、豊かな日々を過ごしていると気付きました。

僧侶としての自覚を取り戻し、もっと社会に役立つことをしていくにはやはりミニマルな空間で過ごす時間を設けて、旅をすることを大事にしたいと思います。

そうは言っても、家族のことを考えると今あるすべてを捨てて遊行を始めることは難しいです。

せめて時季的にでも、旅に出るようにしたいです。いろんな町に行って、出会う人々の話を聞いて、時々一緒に笑ったり泣いたり、一緒に何らかの問題の解決案を考えたりするうちに、自分が見ている景色もきっと変わるでしょう。

また、最近の坐禅会は参加者にお寺に来てもらう形式が通常になっていますが、実は、お坊さんが会いにいくこともありえます。

「今度は山の中で坐禅しましょう」、「お茶だけでもうちのところ(移動空間)に飲みにいらっしゃい」とか。そういう動き方を少しずつ生活に取り入れたいです。


夢見る世界の理想像は?

宇宙から見る地球は美しいじゃないですか。どこにも線が引かれていなくて、1つに繋がる丸くて青い存在。人々の心に引かれている境界線もどんどん薄れていって、少しずつ繋がっていけばいいですね。


その為には、みんなが自分の可能性を信じて、その可能性を発揮していくことが大事です。禅の実践における「世界との一体化」とは、ひとりひとりが自分自身の可能性を信じ直して、その「自信」から、他人の可能性も信じる「信頼」に発展させることとも言えます。

ひとりひとりが可能性を発揮し合う世界、それを目指して活動していきたいと思います。


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